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早坂・三嶋国際特許事務所

 

判決例/Court Decisions


[26]日本最高裁,発光ダイオードモジュール事件 訂正請求における請求項毎の許否判断−July 10, 2008

日本弁理士会近畿支部ホームページに掲載)


平成20年7月10日 最高裁 平成19(行ヒ)318

事件名  :発光ダイオードモジュール事件
キーワード:訂正請求,一部訂正
関連条文 :特許法旧120条の4

主 文:
 (1) 原判決のうち,特許第3441182号の請求項1に係る特許の取消決定に関する部分を破棄する。
 (2) 特許庁が異議2003−73487号事件について平成18年2月22日にした決定のうち,特許第3441182号の請求項1に係る特許を取り消した部分を取り消す。(以下略)

【1】 事案の概要

  本件は,特許第3441182号(「本件特許」)の特許権者である上告人が,特許異議申立事件につき特許庁がした本件特許の取消決定の取消しを求める事案である。

【2】 事実関係等の概要

 (1) 本件特許は,平成6年8月26日の出願に基づくものであり,請求項数は4である。本件特許に対し特許異議の申立てがなされ,特許庁に異議事件として係属した。同事件係属中,特許権者(上告人)は,平成15年法律第47号による改正前の特許法旧120条の4第2項の規定に基づき,特許請求の範囲の訂正を請求した(「本件訂正」)。本件訂正は,請求項1~4をそれぞれ訂正する訂正事項a~dから成り,特許権者の主張によれば,訂正事項aは特許請求の範囲の減縮,同bは明りょうでない記載の釈明,訂正事項c,dは,単なる形式的な誤記の訂正である。

 (2) 特許庁は,本件訂正は認められないとした上,本件特許の取消決定(「本件決定」)をした。決定理由は,(ア)訂正事項bが訂正要件に適合しないから,その余の訂正事項について判断するまでもなく,訂正事項bを含む本件訂正は認められない,(イ)本件訂正前の特許請求の範囲の記載の発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものであった。

 (3) 本件決定の取消しを求める上告人の請求を知財高裁は棄却した。理由は次のとおりであった。
  本件決定は,訂正事項bが訂正要件に適合しないことを理由に,他の訂正事項について判断することなく,本件訂正の全部を認めなかったものであるが,その判断に違法があるということはできない。すなわち,複数箇所にわたって訂正することを求める訂正審判請求又は訂正請求において,その訂正が特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものである場合には,請求人において訂正(審判)請求書の訂正事項を補正する等して複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならない(最高裁昭和53年(行ツ)第27号,第28号,昭和同55年5月1日第一小法廷判決)。そして,この理は,いわゆる改善多項制の下でも同様に妥当する。本件訂正に係る訂正請求書には,複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しておらず,その訂正請求は一体不可分のものであったと解さざるを得ない。

【3】 最高裁の判断

  最高裁は,原判決中,請求項1に係る取り消し決定に関する部分を破棄するとともに,特許庁の取消決定のうち,請求項1に係る特許を取り消した部分を取り消した。理由の要約すると次のとおりである。

 (1) 特許法は,一つの特許出願に対し,一つの特許査定(又は審決)がされ,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。この構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,全体を一体不可分のものとして特許(又は拒絶)査定をするほかなく,可分的な取扱いは予定されていない。
 一方で,特許法は,一定の場合には,請求項ごとに可分的な取扱いを認める旨の明文の例外規定を置いている(例:特許法185条のみなし規定,特許法旧113条柱書き後段の「二以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」との規定,特許法123条1項柱書き後段。)。

 (2) 訂正審判に関しては請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されている。
  これに対し,特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正請求は,異議事件における「付随的手続」であり,独立した手続である訂正審判請求とは,特許法上の位置付けを異にする。異議申立されている請求項につき減縮を目的とする訂正請求には独立特許要件が要求されない等,「新規出願に準ずる実質を有するということはできない」。そして,異議申立されている請求項につき減縮を目的とする訂正請求は,「請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質」を有するから,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,これが認められないと異議事件における「攻撃防御の均衡」を著しく欠くことになる。
  これらの諸点より,異議申立がされている請求項につき減縮を目的とする訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるものと考えるのが合理的である。
  最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決は,複数の請求項を観念することができない実用新案登録請求の範囲中に複数の訂正事項が含まれていた訂正審判の請求に関する判断であり,本件のように,複数の請求項のそれぞれにつき訂正事項が存在する訂正請求において,請求項ごとに訂正の許否を個別に判断すべきかどうかという場面にまでその趣旨が及ぶものではない。

 (3) 従って,「
特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。」

【4】 執筆者のコメント

  本件判決は,特許法旧113条に規定の特許異議申立事件における訂正請求についてのものである。判決理由中では,異議を申立てられた請求項についての訂正請求のあるべき取り扱いを論じる上で,訂正審判との対比に基いて両者の特許法上の位置づけの相違に焦点を当てている。すなわち,訂正審判が「独立した手続」であり「一種の新規出願としての実質」を有するものと位置づけられるのに対し,異議を申立られた請求項についての訂正請求が「付随的手続」であるという相違であり,その根拠として独立特許要件が後者において適用されないことを挙げている。この相違点は,訂正を許すか否かを訂正箇所の全部につき一体として決定すべきものと解釈する必然性が,後者においては必ずしも存在しないことを示すものである。両者間のこの法的位置づけの相違という大前提のもとで,後者における「防御手段としての実質」及び「攻撃防御の均衡」という観点から,本判決が導かれている。

  しかしながら適用されている特許法旧113条による異議申立の審理手続は,特許維持決定に至る審理中において反対意見を表明する機会を申立人に法的に保証しておらず,しかも申立人には特許維持決定に対する不服申し立ての機会も与えていない手続である(特許法旧114条5項)。従って,この手続において申立人と特許権者との関係は,対等とは程遠い。すなわち審理は特許権者と審判官合議体との間のみで進行するに過ぎず,申立人はいわば特許出願における情報提供者に類似の,第三者的立場に置かれているに止まるという点で,審理全体の性格は拒絶査定不服審判に近いものがある。特許法旧113条の特許異議申立制度におけるこのような申立人に不利な構造は,異議申立における訂正請求の法的位置づけを考察する上でも,また攻撃防御の均衡を考察する上でも,欠くことのできない要素であろう。判決文からは全く窺えないが,被上告人特許庁長官は,この点を主張しなかったのであろうか?  最高裁は,この基本構造に当然払うべき何らかの考慮を払ったのであろうか?

  なお,本判決が用いた論拠の全てが,無効審判において無効を申し立てられた請求項についての訂正請求の場合にそのまま該当する。寧ろ,当事者間の対等な対立構造にある無効審判での訂正請求にこそ,一層的確に該当する。従って,本件での判示は,無効審判における訂正請求(訂正請求と見做された訂正審判を含む。)にも及ぶ筈である。因みに,本判決に先行する知財高裁判決で,無効審判中での訂正請求に関して,訂正の許否は請求項毎に判断すべきでありまたその訂正許否の審決部分は請求項毎に確定する,としたものも既に存在する(平成20年2月12日,平成18年(行ケ)第10455号)。
    (執筆者:早坂 巧)



[25]日本最高裁、インクカートリッジ事件判決(リサイクル・アシスト v. キャノン)と
それが意味するもの −November 8, 2007
インクカートリッジ事件判決 (日本弁理士会近畿支部ホームページに掲載)


平成19年11月08日 最高裁 平成18(受)826号
− リサイクル・アシスト 対 キャノン −

事件名  :インク・カートリッジ事件
キーワード:特許権侵害、消尽
関連条文 :特許法1条、2条3項
主 文   :本件上告を棄却する。

【1】事案の概要
本件は、インクジェットプリンタ用インクタンクに関する特許権を有する被上告人が、上告人の輸入販売するインクジェットプリンタ用インクタンクについて、被上告人の特許の特許発明の技術的範囲に属するとして、上告人に対し、そのインクタンクの輸入、販売等の差止め及び廃棄を求めた事案である。

【2】原審の適法に確定した事実関係等の概要
 <1>本件特許権:特許第3278410号

 <2>本件発明:下記請求項1に記載の発明である。
 
請求項1:「互いに圧接する第1及び第2の負圧発生部材を収納するとともに液体供給部と大気連通部とを備える負圧発生部材収納室と、該負圧発生部材収納室と連通する連通部を備えると共に実質的な密閉空間を形成するとともに前記負圧発生部材へ供給される液体を貯溜する液体収納室と、前記負圧発生部材収納室と前記液体収納室とを仕切るとともに前記連通部を形成するための仕切り壁とを有する液体収納容器において、前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面は前記仕切り壁と交差し、前記第1の負圧発生部材は前記連通部と連通するとともに前記圧接部の界面を介してのみ前記大気連通部と連通可能であると共に、前記第2の負圧発生部材は前記圧接部の界面を介してのみ前記連通部と連通可能であり、前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高く(注:構成要件H)、かつ、液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されている(注:構成要件K)ことを特徴とする液体収納容器。」

本件発明は、
 (i) 負圧発生部材収納室に2個の負圧発生部材(液体収納室との連通部側に第1の負圧発生部材、大気連通部側に第2の負圧発生部材)を収納し、これらを互いに圧接させ、その境界層である圧接部の界面の毛管力を上記各負圧発生部材のそれよりも高くする(構成要件H)とともに、
 (ii) インクタンクの姿勢のいかんにかかわらず、前記圧接部の界面全体がインクを保持することが可能な量のインクを負圧発生部材収納室に収納する(構成要件K)などの構成を採ることによって、

上記圧接部の界面において常にインクを保持した状態とし、これにより空気の移動を妨げる障壁を形成する機能を果たさせて、インクタンクがどのような姿勢にあっても液体収納室内のインクが負圧発生部材収納室に流出して負圧発生部材収納室のインクが過充てんとなることのないようにし、開封時のインク漏れを防止しようというものであり、構成要件H及び構成要件Kの双方の構成を、その本質的部分、すなわち、当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核を成す特徴的部分とする。

 <3>被上告人製品
被上告人は、本件発明の実施品を国内で製造し、国内及び国外で販売している。国外で販売した製品につき譲受人との間で販売先又は使用地域から我が国を除外する旨の合意はない、その旨の製品への表示もない。

被上告人製品は、インクが不足してくると使用済みのものとしてプリンタから取り外され、1週間~10日程度が経過した後には、圧接部の界面を含む負圧発生部材の繊維材料の内部に形成された多数の微細なすき間にインクが不均一な状態で乾燥して固着し、そのすき間の内部に気泡や空気層が形成され、その結果、負圧発生部材において新たにインクを吸収して保持することが妨げられている状態となる。それゆえ、使用済みの被上告人製品にその状態のままインクを再充てんした場合には、これをインク収納容器としてインクジェットプリンタに装着して印刷に供することは可能であるが、たとえ液体収納室全体及び負圧発生部材収納室の負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分までインクを充てんしたとしても、圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁を形成するという機能が害されることになる。なお、被上告人製品には、インク補充のための開口部は設けられていない。

被上告人は、再使用した場合、目詰まりの原因となり、印刷品位の低下やプリンタ本体の故障等のおそれがあることなどを理由に、1回で使い切り、新しいものと交換するものとしている。そして、被上告人製品がこのような使い切りタイプのインクタンクであることを示すとともに、使用済み品の回収を図るため、使用者に対し、交換用インクタンクについては新品のものを装着することを推奨するとともに、使用済みインクタンクの回収活動への協力を呼び掛けている。

 <4>上告人製品
上告人製品は、使用済みの被上告人製品のインクタンク本体を我が国及び国外から収集し、インクタンク本体の内部を洗浄してこれに新たにインクを注入するなどの工程を経て製品化して上告人に輸出したものであるが、製品化までの間に1週間~10日程度を超える期間が経過しており、負圧発生部材において新たにインクを吸収して保持することが妨げられ、圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁を形成する機能が害された状態となっている。

製品化の工程は、(i) 本件インクタンク本体の液体収納室の上面に、洗浄及びインク注入のための穴を開ける、(ii) 本件インクタンク本体の内部を洗浄する、(iii) 本件インクタンク本体のインク供給口からインクが漏れないようにする措置を施す、(iv) 上記(i)の穴から、負圧発生部材収納室の負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分までと、液体収納室全体に、インクを注入する、(v) 上記(i)の穴及びインク供給口に栓をする、(vi) ラベル等を装着する、というものである。

上記洗浄により、圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁を形成する機能の回復が図られている。また、液体収納室にインクがほぼ満杯に充てんされているとともに、負圧発生部材収納室には、第1の負圧発生部材と第2の負圧発生部材との圧接部の界面の上方までインクが充てんされており、インクタンクの姿勢のいかんにかかわらず、圧接部の界面全体がインクを保持することができる状態になっている。

【3】原審の判断
原審は、被上告人の請求を認容した。原審は、特許権者(又は実施権者)が譲渡した製品であっても、(i) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型)、又は、(ii) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)には、特許権は消尽せず、特許権者は、当該特許製品について権利行使をすることが許されるものと解するのが相当であるとした。その上で、原審は、上告人製品について、上記第1類型に該当するということはできないが、製品化の工程は、本件発明の本質的部分である構成要件H及び構成要件Kを充足しない状態となっている本件インクタンク本体について、その内部を洗浄して固着したインクを洗い流した上、これに構成要件Kを充足する一定量のインクを再充てんするという行為を含むものであり、圧接部の界面の機能を回復させて空気の移動を妨げる障壁を形成させるものであり、被上告人製品中の本件発明の本質的部分を構成する部材の一部についての加工又は交換にほかならないから、上記第2類型に該当するとした。

【4】最高裁の判断
上記に基づき裁判所は、国内販売品について、特許権の消尽により特許権の行使が制限される対象となるのは、「飽くまで特許権者等が我が国において譲渡した特許製品そのものに限られる」という大前提を示し、そこから、「特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ、それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは、特許権者は、その特許製品について、特許権を行使することが許されるというべきである。そして、上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては、当該特許製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様のほか、取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり、当該特許製品の属性としては、製品の機能、構造及び材質、用途、耐用期間、使用態様が、加工及び部材の交換の態様としては、加工等がされた際の当該特許製品の状態、加工の内容及び程度、交換された部材の耐用期間、当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである」とした。

また我が国の特許権者が国外において譲渡した製品については、所定要件の基で(最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決)特許権の行使が制限される対象となるのは飽くまで我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品そのものに限られるとの理由のもとに、「我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ、それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは、特許権者は、その特許製品について、我が国において特許権を行使することが許されるというべきである。そして、上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては、特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合と同一の基準に従って判断するのが相当である」とした。

これらを本件に適用し、裁判所は:
「被上告人は、被上告人製品を1回で使い切り、新しいものと交換するものとしており、そのためにインク補充のための開口部が設けられておらず、そのような構造上、インクを再充てんするためにはインクタンク本体に穴を開けることが不可欠であって、上告人製品の製品化の工程においても、本件インクタンク本体の液体収納室の上面に穴を開け、そこからインクを注入した後にこれをふさいでいるというのである。このような上告人製品の製品化の工程における加工等の態様は、単に消耗品であるインクを補充しているというにとどまらず、インクタンク本体をインクの補充が可能となるように変形させるものにほかならない。」とすると共に、本件発明の構成要件H及びKに関し、「被上告人製品は、インク自体が圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁となる技術的役割を担っているところ、・・・これにその状態のままインクを再充てんした場合には・・・圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁を形成するという機能が害される」、「上告人製品の製品化の工程における加工等の態様は、単に費消されたインクを再充てんしたというにとどまらず、使用済みの本件インクタンク本体を再使用し、本件発明の本質的部分に係る構成(構成要件H及び構成要件K)を欠くに至った状態のものについて、これを再び充足させるものであるということができ、本件発明の実質的な価値を再び実現し、開封前のインク漏れ防止という本件発明の作用効果を新たに発揮させるものと評せざるを得ない。」とし、併せて、「これらのほか、インクタンクの取引の実情など前記事実関係等に現れた事情を総合的に考慮すると、上告人製品については、加工前の被上告人製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当である。」とし、「したがって、特許権者等が我が国において譲渡し、又は我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品である被上告人製品の使用済みインクタンク本体を利用して製品化された上告人製品については、本件特許権の行使が制限される対象となるものではないから、本件特許権の特許権者である被上告人は、本件特許権に基づいてその輸入、販売等の差止め及び廃棄を求めることができるというべきである。」とし、原審の判断を「結論において正当」であると結論した。

【5】執筆者のコメント
 <1>最高裁は、原審の判決を結論において認めたが、判断においては原審の基準を採用しなかった。すなわち、原審は、(i) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型)、又は、(ii) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)には、特許権は消尽しないという基準を提示し、本事件は第2類型に該当するとしたが、最高裁判決は原審の第2類型の考え方を一部取り込みつつも、異なった基準を示したものである。

 <2>最高裁は、先ず、消尽により特許権の行使が制限される対象を、「飽くまで特許権者等が我が国において譲渡した特許製品そのものに限られる」と述べることにより、別製品と看做される場合はそもそも消尽を論ずる対象外であることを明示した。そして加工等がなされた場合の判断について、譲渡した特許製品と「同一性を欠く特許製品が新たに製造された」と認められるか否かの問題に還元した。原審が、第2類型に該当する場合に侵害とする根拠につき、加工等された製品を「もはや譲渡に当たって特許権者が特許発明の公開の対価を取得した特許製品と同一の製品ということができない」と述べながらも、「新たな生産」という概念を用いるべきでないとしたのに対し、最高裁はこの原審の考え方を退けた。本事件におけるリサイクル品について原審が、特許権が「消尽しない」としたのに対し、最高裁判決が、「消尽」の語は用いず、単に、「本件特許権の行使が制限される対象となるものではない」としたのは、このことの反映であり、新たに製造された製品であるから、もとより「消尽」の有無を問う対象でない、という趣旨のものと思われる。

 <3>更に、譲渡した特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたと認められるか否かの判断を如何に行うかにつき、「当該特許製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様のほか、取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当」であるとすることにより、最高裁は、非常に広範な考慮事項をこれに含めた。ここに、「取引の実情」は、原審が第2類型の判断において考慮の外に置いていたものである。更に、加工等がされた場合について、原審は本質的部分を構成する部材にそれが施されたか否かにより判断したのに対し、最高裁が示したのは「総合考慮」であり、原審が行ったような具体的基準を定めることは排除した。また、「当該特許製品の属性」としては「製品の機能、構造及び材質、用途、耐用期間、使用態様」を、また「加工及び部材の交換の態様」としては「加工等がされた際の当該特許製品の状態、加工の内容及び程度、交換された部材の耐用期間、当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値」を、それぞれ考慮の対象として具体的に挙げている。

但し、本事件において「総合考慮」により判断すべきであるとの考え方は、第一審判決(権利者敗訴)が示したものと実質的に異ならない。すなわち第一審判決文には、「特許権の効力のうち生産する権利については、もともと消尽はあり得ないから、特許製品を適法に購入した者であっても、新たに別個の実施対象を生産するものと評価される行為をすれば、特許権を侵害することになる。」とあり、「新たな生産か、それに達しない修理の範囲内かの判断は、特許製品の機能、構造、材質、用途などの客観的な性質、特許発明の内容、特許製品の通常の使用形態、加えられた加工の程度、取引の実情等を総合考慮して判断すべきである。」とある。従って、最高裁判決は、総合考慮による第一審(権利者敗訴)、第2類型による原審(権利者勝訴)を経て、再度、総合考慮による判断に戻り、但し権利者勝訴は維持したものである。

 <4>本事件への基準の適用においては、判決は、一旦使用済みとなり内部の乾燥に伴い本質部分に係る構成要件(H、K)を充足しなくなった特許製品に上告人が穴を開け、インクタンク本体の内部を洗浄した上でインクを充填して当該構成要件を再び充足させた、という行為全体を加工と捉え、これを、「本件発明の実質的な価値を再び実現し、開封前のインク漏れ防止という本件発明の作用効果を新たに発揮させるもの」とした。ここで重視されたのは、穴の形成が「単に消耗品であるインクを補充しているというにとどまらず、インクタンク本体をインクの補充が可能となるように変形させるもの」であること、及びインクタンク本体内部の洗浄という工程が、単にインクを再充填しただけでは充足できない上記構成要件の再充足を可能にした、ということである。第一審の判決文中には、特許製品が構成要件(H、K)を一旦充足しなくなったことも加工により再充足したことも争点として現われていないことから、原審において初めて提出されたようであるが、今回の判決は、実質上この一点のみから導かれたものである。総合考慮におけるその他の事情に関しては、「これらのほか、インクタンクの取引の実情など前記事実関係等に現れた事情を総合的に考慮すると・・・」とあるに止まり、考慮のプロセスは示されていない。

 <5>販売後の特許製品に加える加工等に、今後どのような態様のものが出現するかは予測が困難であり、余りに具体的で限定的な基準を設けることは、判断の硬直化による実態からの乖離をもたらす可能性がある。その点から、判決が、特許製品になされた加工等が「新たな製造」にあたる否かは「総合考慮」により判断すべきであるとしたことは、肯定できる。しかしながら、この「総合考慮」を如何なる観点から行うのか、挙げられた種々の事項を如何に総合するのが特許法の目的に適うのか、ということについては、判決は何も述べていない。総合考慮における観点が異なれば、事実は同じでも結論は変わり得るが、「総合考慮」の意味・内容は漠としている。

 <6>またこの判決が示した基準は、譲渡した特許製品に加工等を施した場合についてのものであり、それにより「新たな製造」がなされたか否かを問うものである。原審が提示した、加工等を必須としない第1類型(本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後の再使用又は再生利用)については、判決文を見る限り、否定も肯定もしていない。従って、第1類型に該当する場合についての争点は、今後の事件によっては、依然として提出の意味があり得る。加えて、本判決は、穴明け、洗浄そしてインクの再充填という3つの一連の行為及びその結果としてもたらされる構成要件H及びKの再充足という効果の全体をひと括りにして「加工」と捉え、当該加工により「新たな製造」としたものである。これらの行為のうち、洗浄は、インクを再充填したときに構成要件H及びKが再充足されるようにするのに必須な前処理としての意味があり、穴明けは洗浄及びインク再充填のために必須な流体通路を確保するものとしての意味がある。従って、穴明け及び洗浄は、本事件に関する限り双方共に不可欠である。しかしながら仮に、洗浄無しでも構成要件H、Kが回復できるためこれを省いた場合、或いは、インクタンク本体に穴を開けずに真空吸引など他の何らかの方法で再充填した場合にはインクタンク本体に加える処理が1工程減少し、或いは洗浄もせず穴も開けなかった場合には、2工程減少するが、これらの場合に如何なる判断が妥当かについては、「総合考慮」における他の要素の比重が高まると思われる。本事件については具体的解決をみたものの、本判決が示した基準及び判断は、今後起こり得る類似の事件について侵害存否の予測を立てるにも、論理的根拠とするにも不十分なものである。「総合考慮」のあるべき姿について、また本事件の範疇ではないが加工等を伴わない場合についても併せて、議論を深めて行く必要がある。
    (執筆者:早坂 巧)

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[23]特許された医薬の第2用途の特許は、欧州での存続期間延長の対象外 
欧州司法裁判所−April 17, 2007
医薬の第2用途の特許 欧州経済領域で最初に販売された医薬製品についての特許権存続期間延長
(Supplementary Protection Certificate)制度に関して、欧州司法裁判所は、「有効成分の基本特許に第2用途もカバーされるとき、第2用途の特許において『use』はEC規則1768/92の『製品』の定義に含まれない。」と決定した(Case C-202/05)。

この決定は、活性成分の特許と同一用途の新製剤特許について延長はないとした先の欧州裁判所の決定(Case C-431/04, May 4, 2006)に加えて、欧州における同一活性成分特許後の新たな医薬特許(新製剤又は新用途)について存続期間延長はないとする欧州の意思を更に明確にしたものである。なお、先のCase C-431/04における決定の理由は、延長の対象となり得ると規定された「combination of active ingredients」には、組合せの一方が賦形剤等である場合は含まれない、というもの。

[22]制癌剤タキソールの3時間投与特許の無効審決に対する審決取消訴訟: 
訂正審判請求後も審決取消さず、無効維持の判決(確定)
医薬の第2用途の特許   H19.3.1 知財高裁 平成17(行ケ)10818
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070302134304.pdf

制癌剤タキソール(Taxol)の3時間投与に係る薬剤特許(特許第2848760号)につき2007年4月18日無効が確定した(被告訴訟代理人弁理士 早坂巧、山本佳希)。

本件は、特許無効の審決に対し知財高裁に出訴され、訂正審判請求が期限内になされたが、裁判所が、当事者の意見聴取を経た結果、特181条2項の審決取消はせず審理を続行して無効審決を維持したケースである。

[判示事項]

 <サポート要件>
判決の理由において、裁判所は、医薬についての用途発明においては、「薬理データ又はこれと同視することのできる程度の事項を記載してその用途の有用性を裏付ける必要があるというべきである。そして、その裏返しとして、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを超えているときには、特許請求の範囲の記載は、特許法36条5項1号が規定するいわゆるサポート要件に違反するということになる。」と判示し、明細書に有効性等を裏付ける記載のない投与量範囲と癌の種類とを含む発明について、「発明の詳細な説明に記載されていない」と判断した。

また判断にあたり、そのような投与量範囲を使用せんとする明細書中の出願人の「意図」の有無は無関係であるとした。

更に、特許出願後に刊行された文献の記載をもって「発明の詳細な説明の記載内容を補足することは許されない」旨判示。

 <臨床プロトコールの刊行物記載と新規性>
臨床プロトコールが優先日前に刊行物に記載されていたことにつき、裁判所は、「頒布された刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号)においては、特許を受けようとする発明が新規なものであるか否かを検討するために、「当該発明に対応する構成を有するかどうかのみが問題とされるべきである」とし、有効性・安全性について、刊行物に「確立した態様としては記載されていないとしても」、それだけでは、発明の構成要件を充足する態様が刊行物に「記載されていると認定することの妨げにはならない」旨判示した。

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[18]Koepnick Medical Educ. Res. v. Alcon Laboratories, CAFC判決
2005年12月28日
CAFC判決  近視等の外科的治療法である角膜切除術(keratectomy)の実施方法の特許の侵害訴訟控訴審で、米連邦控訴裁判所(CAFC)は、争点となったクレーム中の用語の意味の解釈に当たり、先行技術に対する「主たる利点」として明細書で強調されている効果と整合しないことを一根拠に広い解釈を退けた地裁の判断を認めた。更にCAFCは、特許許可通知で審査官が示した許可理由につき出願人が争わなかったことを、地裁がその判断の妥当性の根拠としたことについても認めた。
  本事件で認められたクレーム用語の解釈手法は、次とおりである。
 (i) 明細書中での発明の主たる効果の主張は、その効果をもたらし得ないようなクレーム用語の解釈を排除し得る。
 (ii) 特許許可通知で審査官が許可理由とした事項は(出願人が争わなかった場合)、当該理由に整合するようクレーム用語を限定的に解釈する根拠として用い得る。
 但し本事件での判断は、明細書中の全実施例が狭い方のクレーム解釈に対応しており、しかも問題の用語に広い方の意味を与え得たかも知れないクレーム13は、放棄されていたという事情の下でのものである。従って、一般論として、明細書の他の部分に記載の有力な根拠なしに上記(i),(ii)が特に重視される、と見るべきではないと思われる。

 

[17] 明細書のサポート要件適否は出願人に証明責任−知財高裁判決 H17.11.11
明細書サポート要件適否は出願人に証明責任   H17.11.11 知財高裁 平成17(行ケ)10042

 特許の取消決定に対する取消訴訟の判決において、知財高裁は、特許法36条6項1号(現行法)の要件「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」(明細書のサポート要件)につき、
 ・要件に適合するか否かについては、取消訴訟における出願人/特許権者が「証明責任を負う」
 ・特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない
旨判示した。

[16] 米連邦最高裁、米国特許法Bolar条項の幅広い解釈を示す−June 13, 2005
米国特許法Bolar条項の幅広い解釈   Merck KGAA v. Integra Lifesciences I, Ltd. http://www.law.cornell.edu/supct/pdf/03-1237P.ZO

米連邦最高裁は、医薬品等の連邦規制当局に情報を提出するための特許発明の実施を免責する米国特許法271条(e)(1)(所謂Bolar条項)の解釈につき、次のとおり判示した。
・271条(e)(1)の適用は、後発(generic)医薬品に限定されない。

・連邦の規制プロセスに関連した活動には、前臨床試験も含まれる。

・前臨床研究で使用した特許化合物がFADへの提出の主題とならない場合でも侵害の免責はあり、実験での特許化合物の使用がFDAへの提出情報に含まれない場合でも、それだけで使用が侵害となるものではない。

・前臨床試験における特許化合物の使用は、試験化合物がFDAへの提出の主題となり得ると、そして実験がIND又はNDAに関連するタイプの情報を生み出すであろうと信じる合理的根拠がある限り、271条(e)(1)により保護される。

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[15] 剤形特許では医薬品特許権の存続期間延長は認められない−知財高裁判決 H17.10.11
医薬品特許権 医薬品剤形の特許権の存続期間延長登録の可否が争われた事件で、知財高裁は、延長登録出願拒絶の特許庁審決を維持した。本事件での特許は、有効成分(酢酸ブセレリン)を1ヶ月以上にわたって持続的に放出するマイクロカプセルに付与されたものであった。同有効成分は先に医薬品として承認済みであり、後で承認された剤形の用途は承認済みのものと同じであった。知財高裁は、延長登録の要件に関し、「(特許)法67条2項及び67条の3第1項1号の『政令で定める処分を受けることが必要であった』という要件・・・は、薬事法14条1項の承認の対象となる医薬品に関しては、『物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から処分を受けることが必要であったこと』というように解すべきであり、そうしてこそ全体として矛盾のない解釈となる。」として、本事件の特許では「その特許発明の実施のために政令で定める処分を受けることが必要であったこと」という要件を満たさないと結論した。

また、知財高裁は、事件の原因となる解釈上の疑義が生じた原因に触れ、特許法67条2項及び67条の3第1項1号の「政令で定める処分」という規定につき、「法律の規定としては、曖昧な部分を含んだままになっていることに問題の根源があることは否定できない。」と指摘した。

この判決が示すところにより、既に医薬品として承認がされている有効成分については、用途が同じである限り、改良形態(組成物、特殊包装等)について特許権を有し新たに医薬品の承認を受けても、特許権の存続期間延長は認められない。

[14] BlackBerry事件(USA)再ヒアリング−判決(2005/08/02)
BlackBerry事件 Research in Motion Ltd.(カナダ)のワイヤレス通信デバイスBlackBerryによる米国内でのe-maiサービスに対しNTP Inc.(米国)が起こした特許侵害訴訟の控訴審再ヒアリングで、連邦巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、
 (1) システムの特許権の侵害については、システムの一部が米国外に置かれていても、システムが全体として役立てられている場所(即ち、システムの制御が実行され且つシステムが有益に使用されている場所)が米国内であれば、全体として「米国内」での使用になり、米国特許法271条(a)に規定の侵害になり得る。
 (2) 方法の特許権については、方法のステップの全てが米国内で実行されない限り、米国内での使用に該当せず、米国特許法271条(a)に規定の侵害にならない、
とそれぞれ結論した(NTP Inc. v. Research in Motion Ltd., CAFC No. 03-1615, Aug. 2, 2005)。
判決全文→
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/03opinions/03-1615r.pdf

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[D1] 均等論に関する最高裁判例「ボールスプライン軸受事件」平成6(オ)1083、 判決日:平成10年2月24日
ボールスプライン軸受事件 この判決は、特許請求の範囲の文言から外れる他人の無断実施について、均等論による侵害が成立するための要件につき下記の通り説示した。 それらは、(1)~(3)の積極的要件と、(4)と(5)の消極的(即ち抗弁事由)要件とからなる。 なお要件(5)では、審査経過での補正や意見書などでの主張が参酌されるが、均等論の判断で審査記録を参酌するのは、米国と日本な特有の考え方である。(なお、英国では、均等論自体を否定。

例えばKirin-Amgen事件HOUSE OF LORDS判決→
http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200304/ldjudgmt/jd041021/kirin-1.htm

「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、
(1) 右部分が特許発明の“本質的部分”ではなく、
(2) 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3) 右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(4) 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(5) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

この根拠については、続けて次のように説示している。
「けだし、(i)特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって、
(ii)このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり、
(iii)他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法二九条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができず、
(iv)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないからである。」

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